日本公民教育学会で発表を行ってきました
「倫理学を活用する新科目「公共」の教材作成について」と題して発表しました。
以下はその概略です。
2022年度から実施される高校の学習指導要領の改定により、新科目「公共」が必修科目として新設される。この「公共」の学習指導要領解説では、哲学・倫理学的な知見を用いて政治経済などの公共政策的な事例を教示することが要求されている。たとえば、「A公共の扉」においては「行為の結果である個人や社会全体の幸福を重視する考え方(功利主義)や、行為の動機となる公正などの義務を重視する考え方(義務論)」といった基本的原理を教示する。続いて「B 自立した主体としてよりよい社会の形成に参画する私たち」、「C持続可能な社会づくりの主体となる私たち」において、Aで学んだ倫理学的な思考の基本的原理を用いて、公共政策的な問題を生徒が考え、討議することが要請されている。
すでに現実問題に倫理学の知見を応用する応用倫理学(生命倫理学や環境倫理学など)についての教科書的な書籍はいくつも出版されている。しかし、それらはいずれも倫理学の研究者が大学生向けに執筆したもので、扱う事例が特殊すぎて現実味がないものであったり、生死に直結したグロテスクな内容であったりして、高校の社会の講義に用いるにはかなり慎重な扱いが求められるものが多い。
本発表は、高校生が倫理学的な思考ツールを用いて、身近な公共政策的なテーマを討議し、学習することができる教材を刊行するにあたって紹介するものである。本書は倫理学、行政学などを専門とする大学の研究者、政策立案・実施している行政実務者、公共を教える高校教員のコラボレーションによる独自性に富む取り組みである。